嗅覚の研究

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 その上、腕に抱かれた状態というのがまた、照れに拍車をかける。街で見かけた恋人たちが、挨拶代わりに髪に口付けている姿なんかが頭に浮かんでしまい、フェリチェの胸は激しく鳴った。 「ううぅっ……は、離せ。嗅ぐな、へんた、い……」 「はっきりとは分からないな。漂っている香りとはまた違う、いい匂いはするけど」 「いっ……!? いい匂いとか言うな……恥ずかしいだろう!」 「なんで? 褒めてるのに」  さらに香りを求めるように、イードは桜色の髪に顔を埋める。腕には自然と力が入って、フェリチェから逃げ場を奪うように、腰から抱き寄せられた。 「繁殖期だから、この匂いがするのかな?」 「今日、初めて大人になったフェリチェが知るものか……。も、もういい加減、離してくれ。頼む、さっきからお前が喋るたび……」 「俺が話すと、何?」 「ひっ……!」  イードの腕の中で、縮こまった体がさらに強張って、淡く柔らかな被毛がぶわりと広がる。大きな耳の先は跳ねるように震えて、イードの頬をくすぐった。 「どうしたの?」 「ふわゎっ……み、耳元で喋るなっ……」  すくめた首筋に、ゾクゾクとした痺れがわだかまり、うっすら汗が滲んだ。
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