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恋物語の書き出しは赤裸々に――?
「生憎、金にはそんなに困ってないんだ。でも、それじゃあ君の気が済まないんだろう?」
穏やかな深緑色の瞳に吸い込まれるように青年を振り仰げば、フェリチェの肩口を艶やかな髪がさらりと滑った。小ぶりな輪郭を覆う真っ白な毛先は、薔薇色に咲きそむ頬を撫でる。
青年はしなやかな指で、その一束を掬い、ゆったりと微笑んだ。
「それなら……。君のカラダを、俺の好きにさせてくれないかな?」
甘く耳朶を打つ声音で、下賤な響きに聞こえる問いを投げかける彼に、フェリチェは全身の毛を逆立てた。
まったく人間のオスときたら、どいつもこいつも碌なものがいない――!
白い被毛に覆われた耳をぴくぴく震わせながら、フェリチェはこの旅の始まりを思い返した。
あの日も、人間のオスに失望して泣いたのだった、と……。
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