しょっぱい失恋

1/2
前へ
/242ページ
次へ

しょっぱい失恋

 ※ ※ ※  街はあっという間に豆粒ほどに小さくなって、里の麓に来たところでフェリチェはようやく地に降ろされた。 「ルタ! なぜ止めた! あのまま剣を握らせてくれていれば、あいつを叩っ斬れたのに!」 「お嬢様が、本気でヤる気だったからに決まってるじゃないですか」  図星を突かれたフェリチェは、わずかに口をつぐんだ。 「人間と揉めるのは勘弁してくださいよ。ただでさえ我らフェネットは、乱獲と迫害で数を減らした一族なんですから。我らを受け入れ、共生の道を歩んでくれたアンシア公国との二百年の絆に、ヒビを入れるのはやめてください」 「それをわたくしに言う? 先にフェネットを裏切り、辱めたのはあの破廉恥男じゃないの!」 「そもそも、あの大馬鹿息子がクズ野郎だと気付いていないのは、お嬢様くらいでしたよ」 「何ですって!」  ルタはやれやれと肩をすくめる。 「だからフェリクス様が俺に被毛を持たせたんですってば」 「だったらどうして、誰もわたくしに教えてくれなかったの? 知っていたら、こんな思いをせずに済んだのに」 「まあ、そのへんのお話もあるでしょうから、フェリクス様のもとへ帰りましょうね」  麓を渡る風に、微かにふくよかな果実の香りを感じて、フェリチェは目の端に涙を滲ませた。
/242ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加