イードが変だ!

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 痛いほど脈打つ鼓動のせいで、耳が間違えて聴いたのだと、冷静なフェリチェが語りかける。しかし人族語ならともかく、耳に馴染んだアンシア語を聞き間違えるはずもなく、感受した音を蘇らせるほどにフェリチェの頬はより色を濃くしていく。  レナードに同じ言葉をもらった時よりも、ずっと胸が苦しくて……、それなのに高揚する気持ちのわけを、フェリチェはまだ素直に受け入れる気になれない。  一呼吸置いて、気丈に声を張った。 『と、突然なにを仰いますの。そんな言葉一つで、わたくしが心を開け渡すとでも思ったら、大間違いですわよ』 「あれ、違った? 文脈的には合っているはずだけど。それとも発音がおかしかったかな? それなら、もう一回……」  滑らかな発音の『愛してる』が、耳から滑り込んで、尻尾の先まで撫でるように響く。 「ふ、ぇ……」 『君は本当に可愛いな』 「よ、よせ……立って、いられなく……」  震える膝の間から逃げ出した尾を、腰に回った手はすかさず追った。  捕まるまいと左右に振れる尻尾の先で、夕焼け色のリボンが翻る。その色が見えない今、ルタに助けを求めることもできず、フェリチェはただただ祈るしかできない。
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