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ひとがいい、を体現した柔らかなギュンターの笑みが一瞬にして凍りつく。
「こ、これは……失礼をいたしましたっ。お二人が既にそのような仲にあったとは……。出直して参ります。ど、どうぞごゆっくり……!」
「ちょ、ちょっと待て、グンタっ! 誤解だ! おいっ! お前の主人だろ、何とかしてから行け! 待てっ、グンタあああ……っ」
慌てたギュンターは、扉も開け放したままで行ってしまった。無情にも、彼のしゃっきりした木々のような香りは、フェリチェの鼻からぐんぐん遠ざかっていく。
「おい、イード! グンタだが、どこが大丈夫だ!? 何かとんでもない誤解をしているぞ!」
「ああ……そう。いいんじゃない? 誤解じゃなくしてしまえば」
「いいわけあるか! いい加減にしろ!」
「いい加減……素直になるのは、チェリの方だろう?」
耳朶を震わす甘い声とともに、指先が尻尾の付け根に届いた。
「い、嫌だ……こんなの、嫌だっ。いつものイードに戻ってくれ!」
その時、玄関から一陣の風が吹き込んだ。新鮮な空気が鼻を掠め、イードはくしゃみを一つする。
すると、フェリチェを捕らえていた腕が、するりと潔く離れた。
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