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恋の裏側
「おお、帰ったか、フェリチェ。ルタも、ご苦労だった」
眩い白銀の髪はフェネットの誇り。豊かな髪は、強さと気高さの証だ。
里長ともなれば、その美しさは――雪をかぶった峻峰が朝陽を照り返すが如く、神々しいまでの輝きを放つ。
幾束にも分けて結い上げた髷の太さが、猛々しさと威厳を示し見せ、居並ぶ者を自然と跪かせた。
その髷の一房がばっさりと切り落とされているのが、フェリチェの目には痛々しく映った。
己の愚かしさが悲しくて、フェリチェは年甲斐もなく父の膝に縋りついた。
「ごめんなさい。わたくしが愚かだったばかりに、お父様の美しいおぐしが」
「よいよい、あの放蕩息子との手切金と思えば安いものだ」
「だけどどうして? どうして、フェリチェを止めてくれなかったの?」
長フェリクスは、幾分か堅い声で問いかけた。
「アレがそういう男だと告げれば、お前は立ち止まったか? わたしにはそうは思えなかった。事実、奴にお前の絵を描かせるなと諭したこともあったはずだが、その時お前はどう感じた?」
「お父様は……娘が可愛くて、殿方と会っていることが面白くないのだと思っていました」
「そうだ。そしてお前は何も疑わず、嬉々として似姿を描かせた。――ルタ、あれをここへ」
申し付けに従ったルタが、別室から滑車のついた籠を運んできた。キャンバスが山と積まれている。
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