成人と初恋と

1/2
前へ
/242ページ
次へ

成人と初恋と

『拝啓。お星様の彼方にお住まいのお母様。  フェリチェは今日、大人フェネットの仲間入りを果たしました。  わたくしはこれから、愛しのレナード様を花婿として迎えに街へ降ります。どうぞお見守りください!』  木の葉にチャルミの根っこで書いた手紙を、墓前に供えてきたのは今朝のこと。  期待に胸を膨らませたフェリチェは、フェネット族特有の大きなオオカミ(よう)の耳と、優美な曲線を描く尻尾をピンと立てて山を降りてきた。  すべては愛しい婚約者に会うために。 (レナード様は爽やかな果実の香りがするの)  一昨年のオーグの月。山の麓でキャンバスと向き合うレナードに初めて会った時、フェリチェは彼が纏うコロンを、とてもいい匂いだと心に刻んだ。  彼の甘く蕩けるような笑顔も、鏡以上に鮮やかに描いてくれるフェリチェの似姿も、思い出そうとすれば自然と、その香りがフェネットの敏感な鼻をくすぐった。
/242ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加