成人と初恋と

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  風が運命を運んでくる。フェリチェは匂いを頼りに、街まで来た。  二ヶ月ぶりに彼に会ったら、迷わずその胸に飛び込むと決めている。成人したことを告げたら、彼は喜んでフェリチェを抱き上げてくれるのだ。  そして人々に祝福され、二人はフェネットの里へ送り出される……そんな未来を思い描き、頬は野花に負けじと春めいた。  それなのに――。それなのに、だ。  現状はどうだ。  二人を取り囲む人々の顔に、祝福の色はない。おろおろと戸惑いを露わに見守る者、野次馬根性丸出しで楽しそうに爪先立つ者。  その中心にて、フェリチェは天を仰ぐ。  白雪のように柔らかな被毛に包まれた耳は力無く垂れ下がり、柳の尾は股の間で寂しげに揺れた。 「レナード様……」  大きく息を吸って、吐き……フェリチェは努めて平静を取り繕う。すると、さっきまでの心とはまるで真逆の言葉が、するすると滑り出た。 「わたくしとの結婚のお約束は、本日をもってなかったことに!」  それが、フェリチェの成人の日に起きた最悪の出来事で、すべての始まりであった。
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