36人が本棚に入れています
本棚に追加
放り出された断罪の剣にフェリチェは手を伸ばした。
たいして使い込まれてもいなさそうな豪奢な柄を、革のグローブ越しに握り込むや、フェリチェの手首に衝撃が走る。
不意に現れた何者かに、手首を叩かれたのだ。
剣を取り落としたフェリチェの前には、彼女を庇うように青年が立ちはだかっていた。
青年の頭には草木染の飾り布が巻かれ、短い髪とフェネットの白い耳が覗いている。フェリチェの鼻先では、白く細長い尾が揺れた。
「ルタ」
幼い時分より護衛として影に潜み、何かあれば颯爽と駆けつける青年を見上げれば、彼はフェリチェに一つ頷くのみ。静かにレナードに歩み寄った。
「な、なんだっ……フェネットの使用人風情が、僕に触れようものなら父上に言いつけてやるからな!」
フェネットの磨かれた爪は、岩をも切り裂く。
眼光鋭く近づいてくるフェネットの戦士に、温室育ちの坊ちゃんは身を竦ませ、情けない虚勢を張った。
最初のコメントを投稿しよう!