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ルタは身を低くしながら、ほんの刹那レナードを虫けらでも見るような目で睨み据えると、すぐさま面を伏せて両手を掲げた。
「姫の非礼をお詫び申し上げます。こちらは、長より預かりしフェネットの誠意。どうぞお納めください」
ルタが差し出したのは、絹布に包まれた見事な髪の一房だ。フェリチェと同じ白雪色の、豊かに波打った柔らかな髪だ。
「おおっ、これはフェリクス殿の髪か! ふむ、詫びとして不足ない、素晴らしい品だ。これならば向こう一年は遊……いやっ、療養に専念できそうだ!」
「お気に召していただけたようで……。それでは、これにて姫とのご縁はお忘れいただき、今後一切その名を口にされませんよう、お約束いただけますか?」
フェリチェには、ルタの頼もしい背中しか見えなかったが、どういうわけかレナードの顔は真っ青だった。
「ひっ……! し、承知した……」
「さすが、レナード殿はたいへん聡明で、理解のある素晴らしい御方でございますね。これでわたしも安心して里に帰ることができます――さあ、姫。帰りましょう」
「待って、ルタ。わたくし、まだこの破廉恥男に言いたいことが……!」
「帰りますよ」
ルタは問答無用でフェリチェを担ぎ上げると、風を切って人混みを駆け抜けた。フェリチェの罵倒は風切り音に飲まれ消えていく。
花も草木もフェネットに敬意を示すように、道を開けた。
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