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「転校生、棗のクラスだったんだ?」
昼休みの中庭で弁当のミートボールをつつきながら、幼馴染みの千野千野が訊ねてくる。壮真は休み時間の度に女子に囲まれていたから、あの後一言も言葉を交わしてはい
ない。
昼休みになると、いよいよ尋問も本番! とばかりに人だかりができたから、その隙に逃げるように外に出てきたのだ。
午前の授業中、ずっと壮真のいる右側からの視線を感じたのは、気のせいだったろうか。
「来るとは聞いてたから、女子かなって期待してたんだけど」
千野がパック牛乳を啜りながら言う。少し背が低いことを気にしている千野は、パンだろうが和風の弁当だろうが、常に牛乳を合せている。
「男だったし――」
自分で昨夜の残りを詰めた弁当を広げながら、棗は口ごもった。睨まれたことなど、わざわざ言わなくてもいいだろう。
けれど千野は、牛乳のストローを加えたまま「棗」と短く咎めた。
幼馴染みには、棗が大事な話を呑み込みがちな癖を見抜かれている。
「……なんか、睨まれた」
「誰に?」
しぶしぶ事実を告げたとき、頭上から声が降ってきた。
汗を拭くタオルを忘れたらしく、身につけた野球部の練習着を引っ張って顔を拭い、どかっと腰を下ろすのは、もうひとりの幼馴染みの長谷部長谷部だ。休み時間の前半は自主トレでグラウンドを走って来たらしい。
「榊壮真っていう転校生」
「棗、なんかしたのか?」
「してない、と思う……?」
そもそも東京にもキラキライケメンにも、今日の今日まで縁はない。
「自分のことなのに、なんだよ」
千野が笑う。
「わかんないよ、人に自分がどう思われてるかなんて」
あ。
やばい。
声に感情が滲んでしまった。ほんの少しだけど、そのほんの少しにこの幼馴染み二人は気づくかもしれない。途端に呼吸が苦しくなる。
どうしよう――
「あー、てか、一年生にめっちゃ可愛い子入ったって知ってる!?」
息が止まる寸前で、千野がわざとらしく声を上げた。
絵に描いたようにわざとらしいのに、長谷部は「部の先輩が言ってたな。SNSが人気とかどうとか」と淡々と調子を合わせていく。千野が素早くスマホを操作して、噂の彼女のアカウントを見つけ出した。
「ほら、かわい~」
空気が重くならないよう、リカバリしてくれたことに感謝しつつ、差し出してくる画面をのぞき込む。数人の女の子が踊っていた。
「うん。かわ……いい……?」
正直、発光したりハートが飛んだり縦横斜めに揺れたりのエフェクトがかかりまくっていて、顔などよくわからない。千野は「っか~!」と酔っ払い親父みたいな声を上げた。
「棗は初恋の子一途だもんな!」
「ちょ、声、大きい!」
中庭で弁当を食べている生徒は他にもいるし、中庭だけに大きな声を出せば反響する。実際、渡り廊下を渡っていた生徒も、こっちを怪訝そうに見たりしていく。各階の窓が開いてる廊下にも、響いてしまったのではないだろうか。
「おれだってもうよく覚えてないのに、いつの話をしてんだよ」
「俺も覚えてるぞ」
長谷部が早くも二つ目の弁当のご飯を頬張りながら言う。
「そーだよ、おまえが、俺たちにだけって話してくれたの、嬉しかったんだから、忘れないよ」
「……もうやめて。恥ずかしい」
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