【伊藤博文】不況? 大日本帝国には関係ありません

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【伊藤博文】不況? 大日本帝国には関係ありません

 執務室の窓から外を見ると空は青く澄み渡り、非常にすがすがしい気分になった。さて、今日も国のために頑張るか。伊藤博文がそう思った時だった。勢いよくドアが開けられたのは。 「首相! 一大事です!」  側近の手には何かが握られている。察するに電報だろう。この慌てぶり、いい知らせではなさそうだ。嫌な予感がする。まさか、アラスカを襲撃されたのか? 「そう焦るな。どうした?」 「一言でいうなら、不況です。それも大不況です! 世界中がパニック状態です」  不況? この前ダイナマイトという大きな買い物をしたばかりなのに! 「それで状況はどうなんだ。具体的には?」  伊藤博文は最悪のシチュエーションが頭をよぎる。 「私にも分かりません。でも、大久保さまをお連れしました。これにて失礼します」  そう言うが早いか、側近は足早に去っていった。巻き込まれたくないからだろう。大久保利通を見ると、この前のことを思い出したのか、ぶるぶると震えている。ひとまず謝る。 「いいえ、お気になさらず。誰でもヒステリックになることは――いえ、何でもございません」  伊藤博文の怒りの表情を見て、途中でやめたらしいが、もう遅い。いや、そんな些細なことはどうでもいい。早く現状を把握しなくては。 「それで状況はどうなんだ? 不況の影響は?」 「我が国への影響は少ないと思われます。というのも、不況になったのは欧米に限定されていますから」  伊藤博文の考えは大きく外れた。 「欧米だけ不況? 本当なら嬉しいことだが……。なぜ、そう言い切れる?」  疑心暗鬼になる。 「理由はこうです。ドイツが銀貨の製造をやめたのです。つまり、銀の需要が下がったわけです」 「銀の価値が下がった。なるほど、アラスカで金を採掘している我が国には影響は少なそうだ」  相槌を打つ。 「そうなんです! そして、銀を産出していたアメリカにも打撃を与えました。こんな感じに!」  拳を握ると机を思いっきり殴る。「痛い!」と大久保。 「それで、欧米はどんな感じなんだ?」  駄目だ。笑いを堪えきれない。 「アメリカですが、大きな銀行が破綻したらしいのです。それもいくつも!」 「うんうん。それで?」 「銀行が破綻すれば、結果はお分かりでしょう? 企業が数えきれないほど、倒産しましたし、解雇された人々で街中が溢れかえっているのです!」  まるで自分がそう仕向けたかのような話ぶりだ。演説のような口調でもある。こういう時くらい大目に見よう。 「これで、アメリカも当分は戦争ができないでしょう」  二人は笑い合った。 「よし、分かった。もう下がって大丈夫だ。そうだ、帰るついでに陸軍大将の西郷を呼んでくれ。話があると」
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