ヒトラー、画家になる

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ヒトラー、画家になる

 ヒトラーには、自分の絵画に絶対の自信があった。今までの評論家には見る目がなかったのだ。しかし、今回の展覧会で自作の素晴らしさが証明されるのは明白だった。なぜなら、今回の展覧会では作者の名前は書かれていない。つまり、無名作家にもチャンスがある。今回こそ賞賛されるに違いない。 ◇ ◇ ◇ ◇  時をさかのぼること1か月前。ヒトラーは気づいたら2024年に来ていた。神様のいたずらか、それとも誰かがタイムスリップさせたのか。その理由は不明だった。2024年にいる、その事実は変わらない。  ヒトラーは自身が悪名高い政治家、敗北者との烙印(らくいん)を押されていることを知った。そんなことはどうでもいい。問題なのは、自分の絵画が評価されていないことだ。これには我慢ならなかった。  確かにヒトラーの絵は写実的だ。しかし、写真が発明されなければ、素晴らしい評価を受けたに違いない。運が悪かったのだ。同年代のピカソが有名なのも気に食わなかった。幼稚園児が描いた絵と変わらないではないか。  しかし、今のヒトラーにとってはどうでもいいことだった。数日前、こんな案内状が届いた。「あなたの絵には素晴らしいものがある。今度、作者名を伏せた展覧会を開きます。ぜひ、出展しませんか」と。ヒトラーには願ったり叶ったりだった。  今回の展覧会では見学者が気に入った作品に点数をつける、という趣向が凝らされていた。これなら、ヒトラーにもチャンスがある。 ◇ ◇ ◇ ◇  あっという間に選考期間は過ぎ去り、いよいよ大賞の発表日になった。ヒトラーは確信していた。自分の作品が受賞するに違いないと。  しかし、残念ながら佳作止まりだった。大賞は別人が受賞した。確かにヒトラー自身も素晴らしいと感じていたから、悔しさはなかった。  後日、受賞作が作者名入りで公開された。さて、大賞を受賞したのは、どこの誰だろうか。純粋な興味から見に行くと、そこにはこう書かれていた。「この作品はAIが作りました」と。
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