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カフェで、映画の感想を話し合いながらケーキとコーヒーを飲むと、水族館にやってきた。
「すげーな」
呆けたような声が出た。
ヒロは俺の隣で照れたようにそわそわしている。
水族館の概念が、ちょっと変わった。
入ってすぐの水槽には、魚がいるのは当たり前だが、水槽をスクリーンにして映像が投射されている。
どこもかしこもカラフルで、俺はきょろきょろしてしまう。
メリーゴーランドもあり、つるっとした馬に乗った子どもが、外で立って待っている父親に手を振っていた。
家族連れと、男女のカップルと、女の子同士が多い。
みんなスマホを片手に、館内や自分たちの写真を撮っている。
「ハヤミさん、写真撮っていい?」
「おう」
神保町のことを思い出して少し身構えたが、ヒロは目の前の水槽だけを写真に収めた。
拍子抜けしたが、こんないかにもなデートスポットで二人で写真を撮らずに済んでよかったと思い直す。
館内はどこも美しくて、来館者が写真を撮ってそれをSNSに上げるという、現代の利用者の楽しみ方に沿って作られている。
素直にすごいと思った。
俺は、仕事のデートシーンの参考になるかなと思い、一応写真に収めた。
映画に流行りのカフェ、水族館と、デートらしいデートをしている。
俺は少し居心地が悪い。
ヒロはカフェでもここでも写真を撮っているが、この前と違って自撮りもしなければ俺のことも写さなかった。
どちらかと言えば、俺が写り込まないように注意していたように思う。
最初のデートではたまにあったスキンシップもなくなった。
避けられているような気もする。
それなのに、ヒロは普通に楽しそうでもある。
今までに、誰かと付き合っておけばよかった。
恋愛慣れしていない俺には、ヒロの気持ちなどさっぱりわからなかった。
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