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田舎で生まれ育ったからか、こういう所に来ると新鮮に都会だなと思う。
六月になった。
今日は晴れているがやはり梅雨時らしく湿度が高い。
品川駅で降り、駅前でビルを仰ぎ見る。
あまり縁が無く、乗り換え以外で利用したことがなかった。
こんなところで何をするかわからないが、今日のことはヒロに任せきっている。
ヒロに聞いても、「楽しみにしてて」としか言われなかった。
「ハヤミさん」
後ろから、声をかけられた。
ヒロの声を聞くのはあの日以来だ。
「ごめんね、待たせて」
「いや、まだ待ち合わせより前だから」
今日のヒロはキャップを被って、オープンカラーの紺色のシャツに、細身の黒いパンツを履いていた。
この前よりも、少し落ち着いて見える。
「今日は、来てくれてありがと。
もう会ってもらえないかと思ってたから、ほんとに嬉しい」
かしこまった態度でそう言ってから、ヒロは眉尻を下げて笑った。
「映画予約してあるんだ。
ハヤミさん原作好きって言ってたから」
「……あ、そうなのか、ありがとう」
歯切れの悪い返事になってしまった。
俺はあまり、小説や漫画の実写化が得意ではない。
でも、ヒロが俺のために考えて選んでくれたことはわかったので、笑顔を作って頷いた。
駅前の映画館に入り、ヒロは予約していたチケットを発券する。
チケット代を払おうとしたら、ヒロは首を横に振った。
「今日は俺に出させて」
「でも……」
ヒロは、自信のなさそうな目で俺を見つめる。
「お願い。
ハヤミさんから見て、俺なんかガキなのわかってるけど、
今日はかっこつけさせて」
俺は小さく頷く。二人分の飲み物と、ポップコーンを一つ買って席に着いた。
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