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ヒロは果物や鳥の模様がついたチャック付きの袋と、サンドベージュの表紙をした厚いノートを買っていた。
「俺、これに日記とか書こうかな」
必要だからと言うより、気に入ったから買ったという感じで、どう使うかはこれから考えるらしい。
三日坊主になりそうだなと思ったけれど、ノートを嬉しそうに見つめているヒロが、俺にはキラキラして見えて、なんだかかわいかった。
二人ですずらん通りを歩いて、俺は趣味の中国関係の書店二軒ほどをはしごした。
しばらく歴史関連の本を眺めていると、店の中を見て回っていたが俺の近くに寄ってきた。
「悪い、俺の趣味の店だとつまんないだろ。
よその店見ててもいいからな」
ヒロは首を横に振る。
「俺、一人だと気後れして入れなかったと思うから楽しい。
向こうの漫画本とかもあるんだね」
「ここは古書の店ってわけじゃないからな。
退屈したら出るから、言って」
「ハヤミさんどういうの好きなのか知りたいから見に来た。
何買うの?」
俺は手元の本を見た。
「明代の文化史の本」
「みんだい」
何もわかっていなさそうな顔で復唱して、はっと何かに気づいた顔になる。
「日明貿易」
ものすごくドヤ顔をしているが、それ以上の情報は一向に出てこないのが面白くて、俺は吹き出してしまう。
笑いをこらえて、もう一度本を見つめた。
「……これ、古書店街の端っこの店で安く買えるかもなんだよな。
でも、行って売ってなかったら戻るの手間だし」
「俺はいいよ。
歩くの好きだし、今日は天気もいいから。
ハヤミさん歩くのしんどかったら、
タイトル教えてくれたら俺買いに戻るよ?」
ヒロは当たり前のことみたいにそう言って、俺は何度か瞬きした。
「いや、そこまではしなくていい。
古書の方が安いだけで、電子化もされてるから」
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