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「場違いだったな」
ヒロも、笑いながら頷いた。
「俺たちあそこの商品一個も関係ないもんね」
「わかる。
俺もあの店入ったとき、うわ、関係ねーって思った。
ノンケだったら『おお』ってなんのかもだけど」
「すんってしちゃった」
二人で笑って歩き、俺は小さな書店の前で足を止めた。
「入る?」
ヒロに尋ねられて、俺は店から視線を逸らす。
「あ、いや」
俺の手首に、骨張ったヒロの指がそっと触れて、軽く引いた。
「入ろ?」
「ん、うん」
促されるまま、小さな店に入る。
ヒロが中に入って「わぁ」と言った。
「吹き抜けだ。すごいね」
小声で俺にそう言って、目を輝かせて店内を眺める。
天井は高く、吹き抜けになっていて、壁面に沿った細い階段をのぼると、二階部分の壁際が全て本棚になっている。
歴史を感じるがモダンな造りの、とてもきれいな店だ。
「俺は、この辺見てるから」
一階に少しだけある、趣味や料理の本の棚を指差すと、は眉尻を下げて小さな声を出した。
「上行こうよー」
せがむような声を出されて、俺はちらっと階段を見上げてから目を逸らす。
「上は理系の本みたいだから、俺には関係ないし」
ヒロは首を傾げた。
「誰にも関係ない本なんてないよ。
読むか、読まないかじゃん。
ハヤミさんSF好きだし読みたい本があるかもしれないよ」
ねえ行こうよ、と弾んだ声で言われて、俺はためらってから、一緒に細い階段をのぼった。
手すりの位置が低くて、少し怖い。
登り切ると、小さな店の全てが見渡せた。
本当に、きれいな店だなと思い、ヒロを見る。
ヒロは何故か薄目になっていた。
「いざ上ると、大丈夫ってわかってても、
ちょっとそわっとするね」
あんなにはしゃいでいたのに、高所が得意ではないのかそう言って、下の階には背を向けて、本棚の本を眺め始めた。
俺はしばらく、階段の上からこの店を見つめた。
「合成生物だって、今ってそんなに未来なの?」
一冊手に取った本を、俺に見せる。
俺は答えずに、ヒロを見つめた。
「ハヤミさん?」
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