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微かに甘くて、熱っぽい声に、さっと気持ちが冷えた。
耳打ちされたその声の色合いで、どういう意味かは充分すぎるほどわかった。
鞄の中を探るのをやめて、ファスナーを閉じる。
「俺、ヤリ目無理ってプロフに書いたよな?」
思っていたよりずっとさらっと言えたけれど、ヒロは目を瞠ってからうろたえた。
俺は視線を逸らしてから、駅の方向を確認する。
きつく手首を掴まれた。
「そうじゃなくて」
ヒロは俯いて硬く目を閉じている。
「そういう意味だっただろ?」
そんなにうろたえなくてもいいのにと思ったら、笑い交じりの声が出た。
別に怒りも悲しさもなくて、おろおろしているヒロが少し可笑しかった。
「いいって。若いし、興味あるよな」
ただ、今日一日が無意味になったような徒労感も、確かに感じていた。
「そうだけど、……そうじゃなくて」
ヒロは一層強く手首を握る。
痛いと言えばきっと手をはなすと思ったけれど、言わなかった。
ヒロはしばらくただ俺の手首を掴んでいた。
「…………俺、ハヤミさんのこと、本当に好きで」
腕の力が、ほんの少しだけ緩む。
顔を上げたヒロの目には、後悔だとか羞恥だとか、決意だとか、色んなものが浮かびすぎていて、それをどう受け取るべきなのか俺にはわからなかった。
「好きで、今日会って、もっと好きになっちゃって、
俺ものすごく嬉しくて」
切れ長の目に、薄く涙が滲んでいた。
悲しいとか言うより、キャパを超えてしまって滲んでしまったような涙だった。
「抱きしめたくなった。
二人きりで、好きって一杯言って、
そういうことできる関係に、早くなりたかった」
ヒロの手の甲にそっと触れて、外させようとすると、今度はその指先を握られた。
「ハヤミさんの彼氏になりたい」
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