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指先を少し握り返す。骨張って、少し冷たい。
「気持ちは嬉しいけど、
この流れで今、それを信じろって言われても、難しい」
ヒロは俯いた。そっと、互いの手が離れた。
「そう、だよね。俺、間違えた。
最初に付き合ってって言うべきだった」
悲しげなヒロを見ていたら、俺はなんだか、申し訳なくなってきた。
「謝んなくていい。
そういう相手探すのがメインのマッチングアプリで、
俺みたいに徐々にとか言ってるやつがおかしいんだって」
こんな、若くてかっこよくて、半日歩き回らせてもニコニコ着いてきてくれるようなやつに、もったいつけた対応をするのも、おかしな話だ。
普段は、知らない人と簡単にしていることなのに。
頭をがしがしかいて、ヒロに笑いかける。
「あー、つか、行きたいんだったら行くか? ホテル」
ヒロはぶんぶんと首を横に振った。
「悪い、普段はもうちょっとスマートに誘えるんだけど、
デートして外でこういう会話とか、初めてでさ」
まだ明るいうちにこんな話をするのも初めてで、それなりに勇気が必要なことだった。
「経験だけならそこそこあるけど、
さすがに今日そういうことになると思ってなかったから、
準備だけ時間貰っていいか?
お前にそんなに面倒かけないでできると思うし」
「行かない」
ヒロはじわっと涙を滲ませた。俺は短く息をついて、ヒロに笑顔を向けた。
「いいのか? 俺は本当に、行ってもいいんだ」
「俺、ハヤミさんと恋人同士ですることがしたいだけで、
セックスだけしたいんじゃない。
ごめん、俺、順番とか言い方とか、すごく間違えた」
ヒロは俯いて、自分の前髪をぐしゃっと握った。
「ごめん、俺、自分がよくないこと言ったのに、
一人で違う違う言って泣いて、ガキ過ぎる。
……最悪」
ヒロは手の甲でぐっと涙を拭って、俺をまっすぐに見つめた。
涙のせいでキラキラしてる目を見て、ヒロのことを、若いなと思う。
うらやましくなるような若さだった。
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