品川

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 二十歳そこそこの若者に、そんな重たいことを求めたくはないのに。  通知で、短くスマホが震える。  画面にメッセージが表示される。 〈仕事お疲れ様。無理してない?  俺は課題が終わって少し暇です〉  ヒロは今も、俺にメッセージを送ってくる。  もう会うことはないと思っていたのに、連絡が来て癒やされている自分が確かにいて、自分の現金さが嫌になる。 〈仕事でトラブルがあって、少し立て込んでたけど、 今日で山は越えたと思う〉  あの日以降、何度か謝罪された。  俺の方が大人げなかったと言ったが、ヒロは自分が悪いと譲らなかった。  今では、普通にまたやりとりをしている。 〈一段落してよかったね。 俺は今日はバイトです。まかない作ったよ〉  少し遅れて写真が届く。  今は休憩中か、勤務が終わったのだろう。  ゴーヤの料理と、色々入ったチャーハンのようなものが写っている。 〈ゴーヤチャンプルと、スパムとか残り野菜入りチャーハン。 おいしくできた〉  なんてことのない日常が、素直な言葉で毎日送られてくる。  俺も、送り返す。 〈うまそう。俺なんか今日カップ麺だよ。 忙しすぎて何味食べたかも覚えてねえ〉 〈それは普通に心配〉  しばらく間があってから、もう一つメッセージが送られてくる。 〈仕事落ち着いたら、また会いたい。 今度は俺がデートコース考えるから。 ハヤミさんに、俺の気持ち信じてもらえるように頑張る〉  どうして、そうまでして俺と。それが率直な気持ちだった。  会うまでに、気の利いた受け答えをしてきたわけでもない。  言葉だけのやりとりで想いをもたれるほどのことをした覚えは無かった。  見た目だって、ヒロはやたらと褒めてくれたが、かっこいいと言われるほどではないと思う。  部屋に残っている、一冊の本を思い出した。  あの日ヒロが買った本の続きだ。  本当は、帰り際にプレゼントするつもりだった。  一巻のない本を持っていても仕方がないし、捨てたり売ったりするのは忍びない。  渡してしまったら、気がかりもなくなるし、いいかもしれない。 〈来週なら〉  送ってから、すぐに返事が来た。 〈ありがとう〉
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