品川

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   *****  田舎で生まれ育ったからか、こういう所に来ると新鮮に都会だなと思う。  六月になった。  今日は晴れているがやはり梅雨時らしく湿度が高い。  品川駅で降り、駅前でビルを仰ぎ見る。  あまり縁が無く、乗り換え以外で利用したことがなかった。  こんなところで何をするかわからないが、今日のことはヒロに任せきっている。  ヒロに聞いても、「楽しみにしてて」としか言われなかった。 「ハヤミさん」  後ろから、声をかけられた。  ヒロの声を聞くのはあの日以来だ。 「ごめんね、待たせて」 「いや、まだ待ち合わせより前だから」  今日のヒロはキャップを被って、オープンカラーの紺色のシャツに、細身の黒いパンツを履いていた。  この前よりも、少し落ち着いて見える。 「今日は、来てくれてありがと。 もう会ってもらえないかと思ってたから、ほんとに嬉しい」  かしこまった態度でそう言ってから、ヒロは眉尻を下げて笑った。 「映画予約してあるんだ。 ハヤミさん原作好きって言ってたから」 「……あ、そうなのか、ありがとう」  歯切れの悪い返事になってしまった。  俺はあまり、小説や漫画の実写化が得意ではない。  でも、ヒロが俺のために考えて選んでくれたことはわかったので、笑顔を作って頷いた。  駅前の映画館に入り、ヒロは予約していたチケットを発券する。  チケット代を払おうとしたら、ヒロは首を横に振った。 「今日は俺に出させて」 「でも……」  ヒロは、自信のなさそうな目で俺を見つめる。 「お願い。 ハヤミさんから見て、俺なんかガキなのわかってるけど、 今日はかっこつけさせて」  俺は小さく頷く。二人分の飲み物と、ポップコーンを一つ買って席に着いた。
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