品川

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 正直、映画が始まってもあまり楽しめなくて、だから俺は隣のヒロのことばかり気にしていた。  ヒロは上映前は律儀にスマホを電源から切って、予告編の時に一度だけ、小声で楽しみだねと言った。  真剣にスクリーンを眺めて、ポップコーンは映画の音が大きい時を選んでこそっと食べる。  エンドロールが始まったとき、視線だけで俺にまだいていいかと確認するので、俺はもちろん頷いた。  そういうヒロを見て、口元が緩んだ。  まだ残っているポップコーンを俺も片付けようと手を伸ばすと、ヒロと指先が触れあった。ヒロは大袈裟なほど驚いて手を引く。  俺は小さく「悪い」と呟いて、ポップコーンを口に入れた。  エンドロールも終わり、明るくなった客席から、ぞろぞろ人が立ち上がっていく。  俺たちは真ん中あたりの席なので、左右の人たちが立ち上がるのを待ちつつ、残りのポップコーンをせっせと食べて片付けた。 「おもしろかったね」  俺はそうでもなかったが、見終わった人たちが周囲にたくさんいるので、その人たちやヒロの気持ちに水を差さないだけの分別はあった。 「オープニングのとこ、映像すげーきれいだったな」  どんな作品でも、善いところも悪いところもある。  多くの人が懸命にコンテンツ作りに携わっている。  席を立つ、まだたくさん人がいて、俺は振り返って自分の座っていた席をちらっと見た。  見やすい席だった。  周囲の人たちの感想や、次の予定をどうするかの声が聞こえてくる。  人並みに流されるまま出てから、ヒロの腕のあたりに少し触れる。  ヒロは少し驚いた顔で俺を見た。 「ヒロ、ありがとな」 「ん?」  二人で立ち止まり、俺はヒロの目を見る。 「結構前から予約しといてくれたんだろ?  満席なのに、いいとこだった」  ヒロは目だけを嬉しそうに輝かせてから口元を結ぶ。  視線を逸らして、照れたような顔をした。 「楽しみだったから」  とても小さな声で呟くと、ヒロはポケットの中のスマホの画面をちらりと見る。 「俺、ちょっとトイレ行ってくるね」 「おう、そこら辺で待ってる」  急いだように歩き去るヒロの背を見つめてから、やはりパンフレットなどを見ながら待とうかと思い直す。  声をかけようとその背を負うと、トイレではなく、その近くの通路の方へと曲がった。 「あ、もしもし? うん、今映画終わったとこ」
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