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一階よりも色合いの静かな二階のフロアを見て回り、最後に一階のカフェバーで少し休んだ。
俺がビールを頼むと、ヒロも同じものを頼んだ。
周囲の、この空間に馴染んだ人たちを眺める。
たまに俺たちをちらっと見て、同伴者とこそこそ何か話している人もいる。
男二人であることと、それ以上に俺とヒロの年齢差が、多分この場で浮いていた。
友人同士に見えない俺たちが、二人でここにいることが、一部の人には面白いのだ。
多くの人は、他の客なんて気にしないし、俺たちがデートしていると気付いていても、不躾に眺めたり話題に上げないだけの常識がある。
昔と比べて、まともな人の方がずっと多いのに、ああいう少数の人のせいで、とても、とても簡単に、気持ちが挫かれる。
ヒロは気にならないのだろうか。
「ヒロ」
ヒロは長い眉をハの字に曲げながらビールを飲んでいた。
あまり好きではないのかもしれない。
「ん?」
「ヒロは、なんで俺と会おうと思った?
年もすげー上だし、本とか料理が好きなやつなんて、
他にもいくらでもいたろ」
上唇についた泡を拭ってから、ヒロは首を傾げた。
「そんなに、上かなあ」
「俺なんかもうおっさんだよ。
生きてるだけで腰いてーし肩はバキバキだし、
腹はゆるみそうだし」
ヒロはまた、ビールをうまくもなさそうに飲んだ。
「俺、ハヤミさんの年は全然気にしてない。
自分の年は気になるけど……。
俺がまだ学生だから、
ガキ過ぎて嫌われたらどうしようとか、たまに、思う」
俺の聞きたいことの答えにはなっていなかったけれど、しつこく聞くこともできない。
手を繋いでいる家族連れをぼんやり眺めながらビールを呷った。
ヒロもちびちびビールを飲みながら、上目遣いに俺を窺った。
「正直、見た目はすっごい好み。
キリッとしてて、すっきりしてて、
若武者っぽくて、かっこいい。
話し方も好きだし、やりとりしてて、
ハヤミさんが一番、合う感じがした。
タイミングとか返し方とか、
話すたびにうれしーって思ったの、ハヤミさんだけだし、それに」
ヒロが手のひらで口元を覆う。
「会ってもっといいなって思った。大好きだよ」
言ってから、恥ずかしそうに俯いた。
ヒロはいつも、当たり前みたいにまっすぐに言うから、どう受け取っていいのかわからなくなる。
「ありがとうな。俺にそんなこと言うの、ヒロくらいだ」
グラスに入ったビールの、消えていく泡を見つめて、それを飲み干した。
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