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水族館を出ると、外はすっかり暗かった。
夜の街灯りの中だと、昼よりもずっと、ビルや人工物の存在感が強くなる。
「すげー大都会だな」
「ね、俺も全然来ないから」
映画館も、水族館も駅の近くで、すごくアクセスがよかった。
しばらくヒロを見つめた。
ヒロは不思議そうに、でも嬉しそうに俺を見つめ返す。
「今日、色々調べてくれたんだな」
確信はなかったけれど、そんな気がした。
ヒロは誤魔化すように視線を逸らした。
「梅雨時だもんな」
そう重ねると、ヒロはそのまま立ち止まった。
「……うん」
映画も水族館も、天候に左右されない。
どちらも駅の近くで、雨の中長く歩き回る必要もない。
映画はそんなに楽しめなかった。
水族館も、俺には合わないと思っていた。
でも、ヒロが色々考えてくれていたことに気がついて、俺は胸が温かくなった。
最初のデートで、ヒロを全然気遣えていなかったことを後悔したし、俺はヒロの気持ちを、信じるのが怖くて、あしらおうとしてきたことにも気がついた。
「ありがとう、楽しかった」
「こっちこそだよ。
最初の時、俺ものすごく失敗したから、
また会ってくれてありがと」
ヒロは、バッグの肩紐をきつく握る。
「……大好き。
付き合ってもらえるように頑張るから、また会ってほしい」
そして、長い眉を寄せて苦笑した。
「悔しいな。
好きって信じてほしいのに、
いっぱい言うしかできないの、恥ずかしい」
俺は自分のうなじのあたりを擦る。
俯いてから、顔を上げる。
そういう言葉を信じるのが、かっこわるいことのような気がしていた。
でも、目の前の人の言葉に向き合わないでいることは、ずるくて、不誠実だ。
信じたくなった。
信じて、向き合ったら、何か変わるんじゃないかと思った。
「俺も、また会いたい」
そう言うと、ヒロは本当に嬉しそうに笑って頷いた。
「またね」
「おう、また」
駅の前で別れ、歩き始める。
ふと立ち止まった。
ヒロに、あの本を渡すのを忘れていた。
当初の自分で持っていてもしかたないという気持ちではなく、ヒロに喜んでほしかった。
戻って、ヒロを探す。もう帰ってしまっただろうか。
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