品川

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「あ、ジュンくん?」  ヒロの声がした。  その方向を見ると、ヒロは俺に背を向け電話をしていた。 「今日メッセージありがとう。 ……嬉しかったけど、バレないようにするの大変だったよー」  すごく、嬉しそうな声だった。 「え、うん。もう終わって帰ったよ。 ……今から? 遅いけどいいの?」  聞きたくなかった。背を向けた。  もっと早く去るべきだった。 「正直、俺も今すごくジュンくんに会いたい」  そうか、と思った。  そうだよな、とも思った。  歩き始める。  駅を過ぎても歩き続けた。  飲んだばかりの体はすぐに怠くなった。  知らない駅の知らない場所で、俺は立ち止まる。  空を仰ぐと、湿った六月の空気のせいか星はひとつも見えない。  煌々と光るビルは無機質で美しくて、汗ばんだみっともない俺は、場違いだと言われているような気がした。 「あーあ」  そんな声が出た。笑えた。  地図アプリで駅まで戻って、家には帰らず新宿で降りた。  久しぶりにそういうバーに行って、適当な相手と雑なセックスをした。  そんなこともそれなりに気持ちよかった。  タクシーで家に帰って、ベッドに転がる。  すごく、虚しい。  マッチングアプリを開く。知らない人から、いいねがついていた。  退会して、消そう。  トーク画面を開いてみた。  ヒロから、新しくメッセージが来ていた。 〈また会おうって言ってくれて、本当に嬉しかった。 今日はありがとう!〉
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