品川

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 誰の隣で、こんなメッセージを送ったんだろう。  画面をスクロールしてみる。  ボロボロの玉子が乗ったオムライスの画像があった。 〈作ってみた!〉  その後に、普通のオムライスの画像が続く。 〈写真見てたら食いたくなって、俺も作ってみた〉 〈ハヤミさんのと並ぶと俺のめっちゃ汚い〉 〈いや、うまそうだなと思ったから俺も食いたくなって〉 〈そういうとこー!  遠隔でおんなじごはん食べるのちょっと嬉しいかも〉  スクロールして遡る。 〈こんな時間まで仕事なの!? ブラックなのでは〉 〈フレックスタイム制だからな。 今日は昼から出勤だったし〉 〈それでも夜中まで働くの心配だよー。体大事にしてね〉 〈ヒロ、ありがとう〉 〈疲れてるのに連絡くれて、こっちこそありがとう。 いっぱい寝てね〉  また遡る。  一番最初の、もう遡れないところで、画面が止まる。 〈プロフを見てハヤミさんのことを素敵だなと思って 連絡させていただきました。 俺も、本や料理が好きで、 ちゃんとしたお付き合いを考えてくれる方と 出会いたいと思っていたので、 もしよければこれからよろしくお願いします〉  枕に顔を埋める。  何でだかわからないけれど、泣けてきた。  苦しかった。  何でってそんなの、ヒロのことを、俺は多分もう好きになってしまっていて、だから最初のデートで誘われたときに傷ついたし、今日、他の人と連絡を取っていることがいやだった。 「あー……」  だけど、ヒロの言葉を信じてみたくて、信じて向き合ったら何か変わるかもと期待してしまった。  また会いたいと伝えたら、俺だけを見てくれるんじゃないかと、期待した。 「くっそ……」  こんなにも、自分が恋愛に向いていないとは思わなかった。  二度会っただけの、九つも下の若い男の言葉を本気にして舞い上がって、傷ついて泣いている。  顔を上げて、スマホの画面を操作する。  退会はしなかった。  一つだけ、メッセージを送った。 〈ごめん。もう会うのやめよう〉
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