吉祥寺

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   *****  指定された場所は吉祥寺だった。  俺の住んでいる所から二駅で、俺にも馴染みがある。  来ないほうがよかったんだろう。  それでも、俺は本当にこういう事になれていなくて、ちゃんと終わらせなくてはいけないのだろうかとか、色々なことをぐるぐる考えてしまった。  日曜昼前の電車は空いていた気がするのに、降りると途端に人が多く感じる。  子ども連れや、若者や年配の方まで、多くの人で溢れていた。  JRの中央改札を出たところに、ヒロが所在なさげに、神妙な顔で立っていた。 「ハヤミさん」  緊張した声のヒロに、俺は笑顔を作った。 「急に、あんなこと言ってごめんな」  ヒロは少し俯いた。  俺は視線を逸らしてから、あまり感情がこもらないように気をつけて声を出した。 「悪いけど、話だけしたら、すぐ帰るから」  ヒロの目元が泣きそうに赤く染まった。  罪悪感が湧くけれど、そもそも、ヒロが傷つく理由もないような気がした。 「お昼だけ、一緒に食べてほしい。……少し歩いてもいい?」 「おう」  梅雨がそろそろ明けるのか、空気は少し爽やかになった。  本格的に暑くなる前の、貴重な天気だった。 「パン買って、公園で食べたい」  俺は頷いて、ヒロの隣を歩いた。 「俺、ここ地元なんだ」  ヒロがぽつりと呟いた。 「そっか」  意外と近くに住んでいたことに、正直とても驚いたが、それをヒロに伝えるつもりはなかった。  これから、あまり立ち寄らないようにしようと思っただけだ。  高いアーケードのサンロード商店街を、二人で歩く。  日曜らしく、余暇を過ごす人たちで賑わっている。 「メンチカツが有名なところ、知ってる?」  ヒロは、初対面の時よりもずっと緊張して見えた。 「うまいよな」 「うん。俺、あそこのコロッケも好き」  そこで会話が途切れて、楽しそうな人並みの中を、俺たちは黙って歩いた。  商店街の端の方の、小さなパン屋でヒロが立ち止まる。 「ここ、俺大好きなんだ」  店に入ると、黒パンやプレッツェルが売られていて、小さな店内は賑わっている。  俺は自分用にサンドイッチとプレッツェルと、小ぶりな甘いパンを買い、ヒロもいくつかのパンを買っていた。 「飲み物は公園で買おう」  眉尻を下げて笑う。  目の下のくっきりとした線を、ヒロは嫌っていたが、俺はとても、ヒロらしくて好きだった。
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