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指定された場所は吉祥寺だった。
俺の住んでいる所から二駅で、俺にも馴染みがある。
来ないほうがよかったんだろう。
それでも、俺は本当にこういう事になれていなくて、ちゃんと終わらせなくてはいけないのだろうかとか、色々なことをぐるぐる考えてしまった。
日曜昼前の電車は空いていた気がするのに、降りると途端に人が多く感じる。
子ども連れや、若者や年配の方まで、多くの人で溢れていた。
JRの中央改札を出たところに、ヒロが所在なさげに、神妙な顔で立っていた。
「ハヤミさん」
緊張した声のヒロに、俺は笑顔を作った。
「急に、あんなこと言ってごめんな」
ヒロは少し俯いた。
俺は視線を逸らしてから、あまり感情がこもらないように気をつけて声を出した。
「悪いけど、話だけしたら、すぐ帰るから」
ヒロの目元が泣きそうに赤く染まった。
罪悪感が湧くけれど、そもそも、ヒロが傷つく理由もないような気がした。
「お昼だけ、一緒に食べてほしい。……少し歩いてもいい?」
「おう」
梅雨がそろそろ明けるのか、空気は少し爽やかになった。
本格的に暑くなる前の、貴重な天気だった。
「パン買って、公園で食べたい」
俺は頷いて、ヒロの隣を歩いた。
「俺、ここ地元なんだ」
ヒロがぽつりと呟いた。
「そっか」
意外と近くに住んでいたことに、正直とても驚いたが、それをヒロに伝えるつもりはなかった。
これから、あまり立ち寄らないようにしようと思っただけだ。
高いアーケードのサンロード商店街を、二人で歩く。
日曜らしく、余暇を過ごす人たちで賑わっている。
「メンチカツが有名なところ、知ってる?」
ヒロは、初対面の時よりもずっと緊張して見えた。
「うまいよな」
「うん。俺、あそこのコロッケも好き」
そこで会話が途切れて、楽しそうな人並みの中を、俺たちは黙って歩いた。
商店街の端の方の、小さなパン屋でヒロが立ち止まる。
「ここ、俺大好きなんだ」
店に入ると、黒パンやプレッツェルが売られていて、小さな店内は賑わっている。
俺は自分用にサンドイッチとプレッツェルと、小ぶりな甘いパンを買い、ヒロもいくつかのパンを買っていた。
「飲み物は公園で買おう」
眉尻を下げて笑う。
目の下のくっきりとした線を、ヒロは嫌っていたが、俺はとても、ヒロらしくて好きだった。
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