吉祥寺

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 来た道を戻って、今度は井の頭公園へと向かう。  前を歩く親子連れは、父親がベビーカーを押して、小さな女の子は母親と手を繋いで歩いていた。  その女の子が振り返る。  ヒロはその子に笑いかけて小さく手を振った。女の子は恥ずかしがって母親の手にしがみつく。  子どもが好きなんだな、と今更ヒロの知識が増えていく。  公園近くのコーヒーショップで二人分のコーヒーを買った。  ほとんど、何も話さずに歩いた。  ひどく気まずかったけれど、気まずさを埋めるためだけに話すのも、違う気がした。  公園は、人で賑わっている。大道芸や、楽器を演奏している人もいた。  池に面したベンチに腰掛け、俺はコーヒーを一口飲んだ。 「ハヤミさん」  ヒロはコーヒーにもパンにも手をつけず、俺を見つめた。 「俺、色々から回ってばっかりで、 会いたくないって思われても仕方ないのわかってるんだけど、 直せることなら全部直す。 だから、どこが駄目だったか教えてほしい。 俺からはもう、連絡しないから、 ……もし、ハヤミさんが俺とまた会ってもいいって、 思ってくれたら、そのときは連絡してほしい」  ヒロの目から、ぽろっと涙が零れた。 「しつこくてごめん。 でも俺、ハヤミさんのこと大好きだから、 何も聞かないで諦めたくなくて」  俺は困惑した。 「……ヒロ、お前って、ポリアモリーだったりする?」  もしかして、複数の相手と誠実かつオープンに関係を持ちたいタイプなのだろうかと思って尋ねた。  ヒロは瞬きをした。 「……あの、知らない言葉だから調べていい?」  スマホを取り出し、検索して、ヒロは静かに首を横に振った。 「あの、違う。 ……あ、もしかして、ハヤミさんが、そうしたいってこと?」  まだ涙で濡れた目で、俺を不思議そうに見つめてくる。 「いや、俺は、一対一の関係がいい」 「俺も」 「でも……」  俺が言い淀むと、ヒロが何かに気付いた顔をした。
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