吉祥寺

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「あの日、 ハヤミさんがまた会おうって言ってくれて すごく嬉しくて、友達にお礼も言いたかったし、 次どうしたらいいかも聞きたかったんだ。 会って話したら、年が違いすぎるよねとか、 その年でインスタ映えの水族館喜んでるわけないよとか 言われて……あれ? って思って、 最終的にホテル誘われて、そうだったんだ、って」  うなだれたままのヒロの、うなじあたりを見つめた。 「友達だと思ってたから、俺、すごくショックだったんだ。 でも、最初の時、俺ハヤミさんにおんなじことしてたよね。 ごめんね、俺、全然経験ないの恥ずかしかったから、 慣れてる振りしたくて、 それで結局、大事な人のこと軽く扱った」  俺は視線を逸らして、池を見つめる。水鳥が泳いでいた。 「ジュンくんて人と、やった?」  ヒロは弾かれたように顔を上げた。 「してないよ! するわけない」  太陽が、水面に反射してキラキラしていた。  それが目に染みるけれど、構わず見つめていた。  ヒロの方を、見られなかった。 「俺はあの日、したよ。バーに行って、知らない人と」  微かに息を呑む音がして、胸が痛い。  今となってみると、ヒロに真偽を確かめもしないで本当に馬鹿なことをしたと思う。 「結局、お前が二股かけてようが俺だけだろうが関係ないんだ。 俺とお前じゃ、つり合わない」 「俺がガキだってこと?」  震える声を出したヒロに視線を向けると、ヒロは涙を溜めていた。  俺も、苦しかった。 「九個も上で、価値観とか家庭環境とかも全然違う。 俺の親は、俺がそうだって知ったら、拒絶する。 お前みたいに、友達に自分のこと打ち明けたりもしてない。 仕事もうまくいってない。 お前とのことで不安になったときに、 お前と話し合うんじゃなくて、 どうでもいい相手とやって、逃避するようなやつなんだ」  声が震えた。 「俺、誰かと将来のこと考えて ちゃんと付き合いたいとか言っといて、 そんな度胸も覚悟もなかったんだ。 お前のこと信じて、好きになるのが怖かった。 ……ごめんな」  涙で歪む視界で、ヒロの頭に手を伸ばす。  髪を撫でると、思った通り硬かった。  この感触を覚えておきたい。  今まで俺は、寂しいときに知らない人と抱き合ってそれを埋めてきただけで、恋をしたことがなかった。
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