吉祥寺

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 ユニットバスで準備を済ませて、ベッドに戻る。  素っ裸のまま戻ると、ヒロの視線が、俺の裸の上半身から、下半身へと移動した。 「スケベ」  からかうとヒロがぎゅっと目を閉じる。 「だって見ちゃうでしょ、それは。 好きな人がそんなえっちな格好で出てきたらさー…… 見るよそれはー……」  ベッドに腰を下ろし、目を伏せたままのヒロの頬を撫でた。 「お前もシャワー浴びる?」  顔を寄せて、耳元に息をかけるように囁く。  ヒロの首筋の汗を、そっと舐めた。 「そのままでもいいけど」 「本当、そういうとこ……っ!」  ヒロが俺を押し倒して、切羽詰まった目で見つめてくる。  俺はもう一度、ヒロの頬を撫でた。 「なあ、初めてが俺でいいのか?」  俺は、少しだけ怖かった。ヒロがむっと口元と眉を曲げる。 「大好きだもん。月久さんがいい」 「ごめんな。疑ってるわけじゃないんだ。 でも、これからも、お前は色んな人と出会うから、少し、怖い」  ヒロは、俺の鎖骨あたりに額をあてて顔を伏せた。 「そんなん、俺も一緒だよ。 経験豊富で包容力ある三十代のイケメン弁護士とか現れたら、 俺太刀打ちできないじゃん。 俺まだ、月久さんのこと大好き以外、ないもん。 実家だから、二人きりで過ごせる場所すらあげられないし、 お金もあんまりないし、 あ、でも今度うちには来てね。紹介したい」  ヒロをきつく抱きしめた。 「お前より包容力ある男なんて会ったことねえよ」  抱きしめたまま、ヒロの硬い髪を、何度も梳いた。 「いつかヒロみたいなやつと付き合えるって知ってたら、 大事にとっておいたのにな」  ヒロは不思議そうな目で俺を見つめて、ちょんと触れるだけのキスをした。 「昔のこと、傷ついたり楽しかったり、 色々あったと思うけど、 それが今の月久さんに繋がってるなら、 俺はそれも含めてあなたが好きだよ」  ヒロが、俺の体を優しく手のひらで愛撫した。 「それに月久さんだって、俺とするのは、初めてじゃん」
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