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しばらく、狭いベッドに二人で転がっていた。
「俺、転職しようかと思ってる」
隣で仰向けになっているヒロが首をこちらに向ける。
「した方がいいよ。
なんかブラックっぽいなってずっと思ってた」
仕事の実態についてはよくわかっていないけれど、とにかく俺を心配してくれているのは伝わるヒロの声に、俺は気持ちが緩んだ。
「いいなと思ってた会社が、募集しててさ」
「受かるといいね!」
即座に言われた気楽な言葉が、俺はなんだかツボに入ってしまい、枕に顔を伏せてちょっと笑った。
「もー、応援してるのに何で笑うの」
ふてくされたヒロは起き上がり、下着を身に着けると、俺の本棚を眺めていた。
「これ」
指差された本を見て、俺は頷いた。
起き上がってヒロの隣に立つ。
「お前にあげようと思って買ってたんだ。持ってく?」
ヒロは首を横に振った。
「このまま、月久さんが持ってて。
ここで読むから」
そう言って、隣に立つ俺を、ぎゅっと抱きしめる。
俺を抱きしめる恋人を、じっと見つめた。
「古本まつり、一緒に行こうな。そこで、三巻買おう」
ヒロが笑う。
「半年後だよ?」
気が早かっただろうかという俺の不安を、ヒロは笑い飛ばした。
「その頃までには、全巻揃えてるよ」
「確かに」
ヒロは本棚に置いてある二巻の背表紙をそっと撫でた。
「面白かったから、一巻貸すね。
一緒に読もうよ。
俺と交互に一冊ずつ買って、お互いの部屋に置いとくの」
「読みづらくないか」
俺が言うと、ヒロはむっとした。
「その都度会えるのいいじゃん」
むすっとした顔が、優しく綻ぶ。
「それでさ、いつか一緒に暮らすときに、
俺の持ってる本とおんなじ本棚に入れたい。
よくない?」
「いいな、それ」
俺も頷いて笑い返すと、ヒロのあたたかい体を、離さないようにきつく抱きしめた。
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