吉祥寺

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   *****  しばらく、狭いベッドに二人で転がっていた。 「俺、転職しようかと思ってる」  隣で仰向けになっているヒロが首をこちらに向ける。 「した方がいいよ。 なんかブラックっぽいなってずっと思ってた」  仕事の実態についてはよくわかっていないけれど、とにかく俺を心配してくれているのは伝わるヒロの声に、俺は気持ちが緩んだ。 「いいなと思ってた会社が、募集しててさ」 「受かるといいね!」  即座に言われた気楽な言葉が、俺はなんだかツボに入ってしまい、枕に顔を伏せてちょっと笑った。 「もー、応援してるのに何で笑うの」  ふてくされたヒロは起き上がり、下着を身に着けると、俺の本棚を眺めていた。 「これ」  指差された本を見て、俺は頷いた。  起き上がってヒロの隣に立つ。 「お前にあげようと思って買ってたんだ。持ってく?」  ヒロは首を横に振った。 「このまま、月久さんが持ってて。 ここで読むから」  そう言って、隣に立つ俺を、ぎゅっと抱きしめる。  俺を抱きしめる恋人を、じっと見つめた。 「古本まつり、一緒に行こうな。そこで、三巻買おう」  ヒロが笑う。 「半年後だよ?」  気が早かっただろうかという俺の不安を、ヒロは笑い飛ばした。 「その頃までには、全巻揃えてるよ」 「確かに」  ヒロは本棚に置いてある二巻の背表紙をそっと撫でた。 「面白かったから、一巻貸すね。 一緒に読もうよ。 俺と交互に一冊ずつ買って、お互いの部屋に置いとくの」 「読みづらくないか」  俺が言うと、ヒロはむっとした。 「その都度会えるのいいじゃん」  むすっとした顔が、優しく綻ぶ。 「それでさ、いつか一緒に暮らすときに、 俺の持ってる本とおんなじ本棚に入れたい。 よくない?」 「いいな、それ」  俺も頷いて笑い返すと、ヒロのあたたかい体を、離さないようにきつく抱きしめた。
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