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「俺もごめん。
一緒に撮ろうって言わないで急に肩とか抱いたから、
びっくりしたよね。
……ね、俺この辺全然わかんないから、案内して?」
まだ二十歳の若者にこんなに気を遣わせてしまったことが申し訳なかったし恥ずかしかったが、それを引きずってつまらないデートにしてしまうのはもっと申し訳なくて、俺は笑顔で頷いた。
「毎年、十一月に古本まつりがあって、
そのときはこの通りの真ん中に小さい出店がずーっと向こうまで並ぶんだ。
色んな出版社がキズとか汚れのある本を安く売ってて、
食べ物とか酒の出店もある。
楽しいよ。すごい人混みだけどな」
「へえー、面白そう」
ヒロが通りにある文具店に目を留めた。
「入る?」
尋ねるとちょっと目を瞠ってから頷いた。
二人で店に入る。
文具だけでなく、非常時のバッテリーを兼ねたレトロな見た目のラジオや、工具箱のような小物入れなど、デザイン性の高いガジェットなども置いてある。
「うわー……」
小声で感嘆して、ヒロは店内をきょろきょろ見回した。
俺は今日は極力本に予算を割きたいので、特に何も見ずに少し後ろをついて歩いた。
「あ、地下もある。見ていい?」
俺が頷くと階段を降りる。
階段の壁面にも、ラッピング用品やかわいいデザインのチャック付きの小袋などがあり、ヒロはいくつか手に取っていた。
「かわいいー。俺こういうかわいいの好きなんだ」
俺は頷いた。
「知ってる。
お前が送ってくる料理の写真、皿とか盛り方とか、
いつもかわいいもんな」
「あれは、ハヤミさんに送るやつだから気合い入れてたのもあるけど」
料理の写真をよく送り合っていたことを思い出して、気が緩む。
緩んで、言う必要もないことを言ってしまった。
「俺だけに送ってたわけでもないだろ」
すごく普通に口に出てしまって、言ってから焦った。
責めるような口調では決してなかったが、言うべきことではなかった。
「最初は何人かやりとりしてたし、
普通に友達みたいになってる人もいるから」
ヒロのほうもさらっとした口調で、俺は少し安心した。
今は、そういう対象としてやりとりをしている人が他にいないとも受け取れるような発言だったが、仮にいたとしても、俺の前ではさっきみたいに言うはずだと思い直す。
あんまりこういう事を気にしすぎても、却っておかしい気がしてきて、俺は考えるのをやめた。
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