神保町

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神保町

 不自然じゃない仕草で、前髪を直してみた。  そんな風に意識すること自体が、そもそも自然じゃない。  でも、前髪が大丈夫かは気になったし、前髪を気にしている姿を見られたくなかった。  緊張していた。  ポケットのスマホを取り出して、アプリを開く。 〈もう着いてる〉  少し考えてまたメッセージを送った。 〈短髪で、紺のノーカラーのシャツに、ベージュのパンツ〉  返事はすぐ来た。 〈出口ってA6?〉 〈そう。出たとこで待ってる〉 〈ごめんね、すぐ行く〉 〈まだ時間前だから、ゆっくり来ていい〉  そう返信する。  そわそわと地下からの出口を見つめては、落ち着けと言い聞かせて素知らぬ顔を作って顔を逸らし、道路を走る車を見つめてみたりした。  もう一度、自分の髪に触れた瞬間だった。 「あっ、は、ハヤミさん!? ですか?」  思っていたよりも高い声だった。俺は振り返って、顔を見て驚いた。 「……ヒロ?」 「あ、うん」  階段を駆け上がってきたらしく、息を切らしながらヒロは頷いた。 「………………フフッ」  俺は思わず笑ってしまう。  ヒロは眉尻を下げた。 「ごめん、笑って」  ヒロは首を横に振ったが、不安そうに俺を見つめ続けている。  申し訳ないけれど、俺はまだ笑いが止まらない。
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