Dinner

21/21

263人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
「あ、見て。さなぎの曲だよ」  テレビから聞こえたピアノの旋律に顔を上げると、カレーを頬張っていたさなぎが目を輝かせてた。喜びがぱっと花開いて、表情を明るく染めると、 「初めて見るよ」  と照れ臭そうに微笑む。 「俺、この曲好きなんだ」 「本当? なら今度目の前で弾くよ」  その言葉に顔を向けると、 「この位の曲なら指は動くんだ」  そう言ってさなぎが微笑む。  数十秒の滑らかなピアノの旋律に吹かれるように、風が緑を揺らし、木陰を揺らす画面には、新発売となるドリップ珈琲がひっそりと佇んでいた。 「ようやく発表会に呼べるね」  ふいにさなぎが幼い頃の約束を、優しく呼び起こす。俺は本当だ、と笑って、伸びてきた彼の指先を柔らかく握った。あたたかな体温がゆっくりと通い、繋がり合う。 「おめかしして行かなきゃ」 「花もね」 「もちろん」  俺たちは小さな食卓を挟んで笑いあう。  繋いだ指先が、とろりと溶けて繋がり合うような気がした。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

263人が本棚に入れています
本棚に追加