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「あ、見て。さなぎの曲だよ」
テレビから聞こえたピアノの旋律に顔を上げると、カレーを頬張っていたさなぎが目を輝かせてた。喜びがぱっと花開いて、表情を明るく染めると、
「初めて見るよ」
と照れ臭そうに微笑む。
「俺、この曲好きなんだ」
「本当? なら今度目の前で弾くよ」
その言葉に顔を向けると、
「この位の曲なら指は動くんだ」
そう言ってさなぎが微笑む。
数十秒の滑らかなピアノの旋律に吹かれるように、風が緑を揺らし、木陰を揺らす画面には、新発売となるドリップ珈琲がひっそりと佇んでいた。
「ようやく発表会に呼べるね」
ふいにさなぎが幼い頃の約束を、優しく呼び起こす。俺は本当だ、と笑って、伸びてきた彼の指先を柔らかく握った。あたたかな体温がゆっくりと通い、繋がり合う。
「おめかしして行かなきゃ」
「花もね」
「もちろん」
俺たちは小さな食卓を挟んで笑いあう。
繋いだ指先が、とろりと溶けて繋がり合うような気がした。
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