Dinner

　電話が苦手だ。
　だから、何度も鳴り響く家の固定電話を、煩わしいという思いで睨みつけては、そのけたたましい悲鳴を無視していた。
　けれど、七回コールが鳴って、少し間が開いてまた八回コール。そんなしつこい電話が三回も続けば、さすがに取らないわけにはいかない気がしてくるものだ。
　俺は躊躇いながらも、苛立ちをぶつけるように読みかけの漫画をソファに投げつけると、コードレスの電話を乱暴に手に取った。
「はい、坂井です」
　小学生の俺は声変わりの来ていない声を、できる限りの低く、不満気を装いながら受話器を手に取った。それは子どもの拗ねた声そのものだっただろうけれど、その時はそんな事どうでもよく、一刻も早く電話口の主との対話を終わらせてしまいたい一心であった。
「Ｔ市立総合病院の村本と言います。坂井友里恵さんのご家族でいらっしゃいますか？」
「……俺の、母さんですけど」
　他人から聞く母の名前に、違和感のようなものを感じながら、そう呟いた時。不意に流しっぱなしのテレビの明かりが目を刺して、視線をそちらにやると、見知った駅前での大事故という見出しの緊急速報が目に留まる。
　その瞬間、すっと掌が冷えていくのを感じた。