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そして……その令嬢たちは今この瞬間も騎士と結ばれる未来を夢見ているんだろうと思うと、少し羨ましく思う。夢を見れる事、それすらもリィルには手の届かないものだから。
「リィル?」
「いえ、なんでもないです」
リィルがそう返すと、誰かの悲鳴が上がる。シリウスとリィルは声の方に振り返るが、姿は見えない。
「すまないリィル。少しここで待っていてくれないか」
そう言うシリウスの顔は、凛々しい騎士の顔で……リィルは頷く。
「大丈夫だから、行ってきてください」
「すぐに戻る」
そう言い走り出したシリウスの背を見つめてリィルは少し笑った。職務を全うしようとする姿に敬意を払いたい。
「さて、私は大人しく待ってるか」
しかしリィルの言葉はすぐに打ち消されることになる。背後から口を布で覆われるとそのまま意識を失ってしまった。
『君を無事に送り届けるまで、私が守り仕えよう』
シリウスのその言葉を思い出しながらリィルは攫われたのだった……。
***
目を覚ましたリィルの視界に映ったのは見知らぬ天井だった。やけに高級感のある部屋なのはわかるが、なぜこんな場所にいるのかわからない。それに手首には縄が巻かれており、動くたびに痛みを感じるほどだ。
「はっ……なんで」
「お目覚めですか?」
声のする方に視線を向けると、そこには一人のメイドがいた。リィルが意識を失う前の記憶では、悲鳴が聞こえてその後シリウスと別れて……そしてこの状態。いったい何が起こっているんだと眉根を寄せる。
「私は旦那様付きの侍女でございます」
「……え?あ、ああ……」
「そしてここは、旦那様のお屋敷でございます」
ああ、そうか。そういうことか。リィルはようやく自分の状況を理解した。
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