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つまり、この屋敷で働いている使用人に攫われたのだ自分は。旦那様というのは何が目的なのかはわからないが、捕らえられている状態から察するになかなかにピンチである。
「なんで、私を?」
「旦那様が気に入ったようでしたので」
リィルの問いに淡々と答える侍女。その答えにリィルはやっぱりかとため息を吐く。無理やり連れてこられたからそんな理由だろうとは思っていたが、でも何故自分なんかをと疑問に思った。
「何故?どうせなら、綺麗な令嬢とかのがいいでしょうに」
「旦那様は、鬱憤を発散できるモノを所望されていますので。活きのいい男は痛めつけるのにちょうどよいですから」
侍女の言葉にリィルは背筋がゾクリとする。これから自分の身に起こるであろう恐怖に体が震えた。
「お逃げになられても構いませんが、旦那様は容赦しません」
「でしょうね……まあ、逃げきれるかどうかも微妙ですし」
「話が早くて助かります」
侍女は一礼すると部屋を出ていった。残されたリィルはこれからどうしたものかと考えるが、特にいい案も浮かばずにただ時間が過ぎるのを待った。
ーーどのくらい経っただろうか?リィルは特にすることもないのでボーッとしていると部屋の扉が開く音がした。ああ、来たかとため息を吐きそちらに顔を向けた。
そこには恰幅のいい中年の男が立っていた。男はニヤニヤと下卑た笑みを浮かべており、その笑みだけでリィルは嫌悪感を抱いた。
「あんたがこの屋敷のご主人?」
リィルがそう問いかけると、男はさらに笑みを深めて近づいてくる。そしてリィルの顎を掴み上を向かせた。
「ほう、なかなかの上玉だな」
「……っ」
顎を掴まれたままジロジロと顔を見られ、リィルは思わず顔を背ける。しかしすぐにまた正面を向かされた。
そして、思いっきり顔を殴られる。
「ぐはっ……!」
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