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今だけは自分の騎士だと言ってくれた、この国一番の優秀な騎士。
シリウスはリィルに駆け寄ると縄をほどき始める。リィルの手首にはくっきりと痕が残り血が滲んでいた。それにシリウスは少し顔を顰める。
「すまない……私が君を一人にしたから」
「い、え……大丈夫で、すよ……」
そうは言うが、リィルは痛みに顔を歪める。痛めつけられすぎて体中が悲鳴をあげていた。本当は女だが、シリウスは誤解したままだから、男が情けないと思われたかもしれない。
しかしそれはリィルの杞憂に終わった。シリウスは傷ついたリィルを丁寧に扱い、自らのマントをかけてその身を優しく包み込む。
「シリウスさ、ん。汚れ……ちゃい、ますよ」
「君が気にすることはない。私は君の騎士なのだから」
シリウスはリィルを優しく横抱きにすると、ゆっくりと立ち上がる。そしてそのまま扉に向かって歩き出した。
リィルは薄れゆく意識の中で、シリウスの凛々しい横顔を見つめる。ああ……やっぱりかっこいいなと見惚れてしまう。
ーーこの人が私の騎士だったら良かったのに。
そんなことを思いながらリィルの意識が途切れたのだった……。
***
次にリィルが目覚めたのは見慣れた屋敷の天井。ぼんやりとした中、瞬きをしてハッとすると勢いよく起き上がった。
「いてててっ!」
「あ!起きた!もお!心配したのよリィル!」
「ぇ……お嬢様?」
ベッドに座るリィルの目の前にまだ10歳にも満たない可愛らしい少女がいた。長い金髪に碧眼のお人形のような彼女は心配と怒りを含んだ顔でリィルに詰め寄るが、ちっとも怖くはない。
「すごい怪我して帰ってくるんだもの、びっくりしておやつのクッキーぶちまけちゃったわよ」
「すみません、エレナお嬢様」
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