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ああもう!本当に厄介な男だなと心の中で悪態をついて、早くこの場を離れようと歩き出した。そんなリィルの後を追ってシリウスが横に並ぶ。
「君は堂々としていればいい。何があっても、私が君を守る」
「……王都限定で、でしょ」
「生憎私は近衛騎士なのでね。ここを離れるわけにはいかない。だが君が望むのなら、この身を全て捧げよう」
「ーーっへ?」
「君が私の主人に相応しい人物になったならば、ね」
そう言ってシリウスは薄く笑う。その顔が色っぽくてリィルはドキッとした。そして同時に、これは揶揄われているのだなと感じた。庶民の自分が騎士に守られるような地位を得られるのはありえない。
「あー、はいはい。わかりましたよ。“王都限定”で、お願いしますね」
だからリィルはとっととこの話を終わらせて、ケーキ屋に向かった。シリウスも察したのだろう、それ以上は何も言わずに隣をついてきた。
***
「んー……迷うなぁ」
「リィル、エレナお嬢様のお使いかい?今限定のレモンピール入りのクッキーなんかもあるけど、どうだい?」
ケーキ屋につくと品物を見ながらリィルが悩む。馴染みの女店主はリィルがエレナのお世話係として働きだしてからの付き合いだ。女だともちろんわかっているし、リィルの目つきの悪さやあえて執事服を着ていることを気にはしない。数少ないありがたい存在である。
「レモンか……美味しそうだな。でもお嬢様の好きなフィナンシェも捨て難い」
「ははは、ゆっくり悩みなよ。両方買っていけばいいさね」
「んー……迷うなぁ」
真剣に悩むリィルをシリウスは優しく見守る。先程まで険しい顔ばかりしていたから、こんな風に穏やかな表情を見てほっとしていた。
そんなシリウスの様子に気づいた店主はニヤニヤとしてリィルを茶化す。
「ちょいとリィル。なんで騎士様を連れてるのさ。もしかして……」
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