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またキザなセリフを残してシリウスは去って行った。リィルは再びため息を吐く。
「ほんっと、なんなんだよ……」
そんな呟きに答える者はいない。なんだか疲れたと手頃なベンチを見つけてそこに腰掛けた。そしてふと視線を上げると、噴水の水面がキラキラと反射して輝いている。その美しさに思わず見惚れていると、突然目の前に影が差した。
「おい、貴様。使用人ごときが悠々とこの場に座るな」
声をかけられて顔を上げるとそこには見知らぬ中年男が立っていた。身なりから貴族だとわかる。護衛なのか騎士を2人連れていた。え、こんな場所で絡まれるの?と内心驚きつつ、リィルは面倒事になる前にさっさと立ち上がる。
「ふんっ、汚い底辺のゴミが」
そんな言葉を吐き捨てられてもリィルは歯向かわない。これが当たり前の世界なのだ。王都の商店街や広場は誰でも出入り自由のはずなのに、こうしてふんぞり返る貴族もいるのだ。
そのままその場を離れようとするとリィルの前を小さな子どもが走る。その子はそのまま貴族の男が座るベンチの方へ行きーー。
「うるさいっ!小蝿が!」
そう叫ばれて、固まった。何かがこの貴族の男の怒りを助長させたのだろうか。理解できるはずもなく、振り返ると恐ろしさから動けない子ども相手に怒鳴る男の姿があった。
ーーああ、理不尽だよな。わかる。わかるよ。意味がわからないよな。
リィルは同情した。自分の目つきが悪いというだけで受けてきた理不尽を思い返して……あの時、差し伸べて欲しかった手を求めて。
「ーーなんのつもりだ?」
気づけば、体が動いていた。子どもを背にして庇うように男の前に立ち、対峙する。
「いやぁ?見てられなかったもので」
「なんだとっ!?平民の分際で私に盾突くつもりか!?」
「子どもを脅すのが貴族の正しい在り方なんですか?」
「っ!」
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