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リィルは言葉に詰まる。自分の力の無さに嫌気がさして、でもあの時の……守られた時の胸の高鳴りが忘れられなくて。
「ありがとうございます。守ってくれて」
リィルは、柔らかく微笑んだ。それを見たシリウスの胸がドキンッと高鳴る。思わず片手で胸を押さえた。何だこれは?と、シリウスは戸惑うが、リィルに悟られないように平静を装った。
「あ……ああ、いや……私は当然のことをしたまでだ」
「それでも、嬉しかったから」
そんなリィルの言葉にシリウスは顔が赤くなるのを感じた。そしてそれを誤魔化すために話題を変える。
「そ、そうだ!あまり長居すると逆上せる。そろそろ出ようか」
シリウスがそう言い立ち上がる。リィルは焦り何か理由を作らないとと頭を悩ませて返した。
「えっ!あ、あー……先にどうぞ」
「リィルはまだ入っているのか?君は長湯なんだな」
「あーはい。お風呂大好きなんでーす」
乾いた笑いを漏らすリィルにシリウスは特に気にもせず、先に上がった。
扉が閉まるのを見てリィルは大きなため息を吐く。
「危なかった……」
あの距離でお互い裸で風呂にいたとか、なかなかなシチュエーションだなと苦笑いした。いつかシリウスがリィルを女性だと知った時、この日のことに対してとてつもなく驚く顔が目に浮かぶ。そして、その勢いのまま「責任をとる」などと言いそうだと思えて……笑えなかった。絶対にバレてはならないなと、リィルは硬く誓った。
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