55人が本棚に入れています
本棚に追加
/83ページ
風呂のことだけでなく、脱衣所でのことも思い出したのか顔を赤くしてしまうリィル。それを見てエレナはニヤニヤしだした。
「でもぉ、リィルもなんだかんだシリウスのこと嫌いじゃないわよね」
「いやいや、好きとか嫌いとか別にそんな次元じゃなくてですね」
「だって、男なんてみんなクズとか言ってたじゃない。でもシリウスには言わないわよねぇ。まあ、最初から好印象だったからかしら」
そう言われてリィルも確かにと思う。シリウスはいつでも騎士らしくあり、リィルのこの見た目に対しても批判せず、寧ろ褒めるようなことを言ってきて……。
リィルはシリウスにされたことなどを思い出して、胸がドキッと高鳴り出した。
「リィル?どうしたの、顔が赤いわよ」
エレナに言われてハッとなる。なんでもないですと慌てて取り繕った。
ーーいやいや、ない。それはない。そんな、だって……こんなの何にも報われないものだ。
リィルは結末がわかりきってるのにシリウスを想うなど愚かなことはありえないと言い聞かせる。しかし、淡い想いは小さくはなっても完全に消えることはない。
「リィル、もっと素直になっても誰も怒らないわよ?」
リィルの様子を見てエレナが困ったように笑う。リィルはうまく返せず、エレナもそれ以上は追求しなかった。
数日後、王城からの舞踏会に参加するエレナの支度が朝から行われていた。リィルは可愛く着飾るエレナをうれしそうに眺め、普段の執事服を身につける自分を鏡で見る。
やはり自分には、この方がしっくりくるなとリィルは思った。
夜になり、リィルはエレナの付き添いとして王城にきた。一階のホールでは煌びやかなドレスを身に纏った令嬢で溢れ、それを見て声をかける貴族の若者。料理も菓子も豪華なもので、ああ本当にここは上流階級の世界だなとリィルは改めて自分との身分の差を感じた。
最初のコメントを投稿しよう!