knight4:私の手を握って

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 思わずビクッと震えるが、すぐに平静を装うリィルにシリウスは言う。 「君は本当に可愛いね……もっと虐めたくなるよ。でも今はこれでやめておこう。引き際を弁えないと君の騎士失格だ」  シリウスは背を向けて扉の方へ向かう。リィルはやられっぱなしでまだ文句が言い足りなかったが、これ以上下手に突っかかるとボロが出そうなのでやめた。  馬車に乗り屋敷へと戻る。今までなら馬車に乗るところで見送りをしていたシリウスが、今日はそのまま馬車に乗り込んできた。 「なっ……」  リィルが驚いていると、シリウスは至極当然のように口を開く。 「君が心配なんだ」 「……っ、私に構うなよ」 「主人のことを心配するのは騎士として当然だ」 「……おまえ、私の騎士なんだろ?主人の言うことを聞けっての!」 「主人の命令を聞く聞かない以前に、主人を守ることが大前提だからね」  口元に弧を描き微笑むシリウスにリィルは口籠もる。完全にシリウスのペースだ。リィルはただでさえ、油断すれば崩れてしまいそうな頑なになっている心を律しているのに。  シリウスの屋敷で彼に言われた言葉全てが嬉しくてたまらなかった。触れられるとドキドキして仕方がなかった。だから、命令したのに……シリウスはどんな形でも近づこうとしてきて、リィルは参ってしまう。  ーーここで、折れるわけにはいかない。全部、シリウスのためだ。自分の想いなんて、そんなの……この人の為に捨ててしまえばいい。 「せいぜい守ってくれよ。絶対に触れずにな」 「心得た」  馬車はリィルの勤める屋敷の前で止まる。シリウスは先に降りてリィルの手をとろうとしたが、リィルがそれをジト目で見る。 「おい、さっそく命令違反か?」 「リィル。これは騎士としてのマナーだ。私を品位のない低脳な騎士として周りに知らしめたいのならば何も言わないが」
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