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knight5:命令だ
シリウスに送られた翌日。リィルは大興奮しているエレナに呼ばれて、彼女の自室へ入った。そこには、王都でもよく見かける薄紅紫色の綺麗なイカリソウの花束がテーブルの上に置いてあり、隣にはニヤニヤとするエレナ。リィルは怪訝そうな顔をしつつも、エレナに声をかける。
「お嬢様、何かありましたか?」
「あったわ。そうよ、あったのよリィル。あなたやっぱりいい感じなんじゃない」
「いい感じ……?と言いますと?」
リィルが首を傾げるとエレナは嬉しそうに言った。
「これよ、この花束!」
「ああ……綺麗ですね。どなたからの贈り物ですか?」
「何言ってるのよリィル。これはあなた宛の贈り物よ。シリウスからの」
それを聞いたリィルは頭を抱えたくなった。え、昨日の今日でこれ?というか、わざわざ花束?どこまで気障なんだ本当に。
「これ、本当にシリウスからなんですか?」
「ええ、そうよ。ほら、カードもついてるわ」
そう言ってエレナが見せてくれたのは『リィルへ』と書かれたメッセージカード。そこには綺麗な文字で一言。
『君への想いを込めて』
「……お嬢様」
「なにかしら?」
リィルは花束とカードをエレナに返すと言った。
「これは受け取れません」
「どうして?素敵じゃない!せっかくシリウスがあなたに贈ってくださったのよ!」
「いえ……それはわかってるんですが。想いに応えられないのにそう易々と受け取るわけにもいきませんので」
苦笑いして返すリィルにエレナは眉を釣り上げていた。エレナからしてみれば贈り物を返すなんて経験がない。
「ねぇリィル?これを受け取ったからといってシリウスの想いを承諾したことにはならないのよ。もっと素直になりなさい」
「素直、ですか?」
「そうよ。この花、リィルは嫌い?」
突きつけられる花束。仕方なくそれを受け取りリィルはジッと花束を見つめる。
イカリソウの花言葉は『君を離さない』。そんな熱烈な想いを向けられるこの現状。
ーー嫌いな、わけない。
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