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奥に物を取りに行った店員を見送り、リィルは腕組みをして馬車の時間はちょうどいいかな、など考える。
「ーーやぁ、愛しい我が主人」
「っーー!?」
突然耳元で囁かれた声にリィルは飛び退く。誰がやったかなんてわかりきっていた。振り向けばそこにはクスクスと笑うシリウスがいる。
「おまえ、気配消すなよ」
「何度も言っているのに、一向に私のところへきてくれない君への可愛い悪戯だと思って許していただきたいものだね」
微笑みつつチクリと嫌味を言うシリウスにリィルはたじろぐ。このまま言い負かされるとまたペースをもっていかれると思い、早々にリィルはシリウスに何しにきたのか尋ねた。
「で?おまえは何しにきたんだよ」
「私は君の騎士なのだから王都に君がいるなるば、共にいるのも必然だろう?」
「あー、はいはい。そうでしたね」
もう何を言っても響かないシリウスにリィルは諦めて、さっさと物を受け取り帰ろうとした。だが、それはシリウスの言葉によって止められる。
「それと、本日は君の主人であるエレナ様から仰せつかっていてね。君をエスコートして欲しい、と」
「はぁ?なんで?」
「それはエレナ様に聞いてくれたまえ。……さて、時間もないことだし行こうか。すまないが、その荷物はエレナ様の屋敷へ届けておいてくれ」
店員にしれっと注文をするシリウスに促されるままリィルはブティックの外へ連れ出される。その際にもドアを開けられて、先に通らされた。先日エレナにしていたのと同じように、本当にエスコートする気なのか?と眉根を寄せてリィルは文句を言う。
「おい、近いんだよ!離れろ!」
「これは失礼したね。でも、私は君をエスコートするように頼まれている。リィル」
名を呼ばれてリィルはシリウスを見る。そこには凛とした騎士の顔の彼の姿があった。
「触れても?」
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