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「不思議そうな顔をしているね。何故こうも好みのケーキを当てられたかといったところかな?」
リィルの様子を楽しそうに見ていたシリウスは、涼しげな顔でスラスラと答えていく。
「君のことは何でもわかる」
「はっ、すごい自信たな」
「当然さ。私は君の騎士であり、君の全てを欲している男だからね」
「んだよ、それ……」
リィルは小さく呟く。わかっていた、本当は。今日のシリウスの行動は先日のエレナにしたものとは違うエスコートだと。すること一つひとつに、こちらが恥ずかしくなるくらいの甘い顔を見せていたことを。
羨ましいなと思っていた。でも想いを断ち切るためには仕方がない、そう言い聞かせていた。
それがこんなにも目の前で蕩けるような瞳で見つめられ、優しい声色で名を紡がれるとリィルの決意が揺らぐ。
「リィル」
呼ばれて顔を上げるとシリウスの顔が目の前にきていて、リィルは、え?と困惑する。そのままシリウスはリィルに向けて言葉を紡いだ。
「私の手を取る覚悟はできたかな?」
耳元でくすぐるような甘いテノールで囁かれて、リィルの思考は止まる。
「早く、私に堕ちてしまえ」
再びそう囁いてシリウスが離れてもリィルは動けずに固まっていた。心臓の音が早くなっていくのがわかる。今何が起きた?とリィルの頭は混乱するばかりだ。
そんなリィルにクスリと笑い、シリウスは優雅に紅茶を飲んでいた。
「おい!おまえ、今の!」
「リィル、注目されたくないのに、今の君は少々目立ちすぎているのでは?」
シリウスの言葉にハッとしてリィルは周囲を見回す。執事服を着た目つきの悪い男のような風貌で騒ぐリィルと共にいる国一番の優秀な騎士のシリウスの2人の組み合わせは簡単に話題の的だ。
「〜〜っ!」
いたたまれなくなったリィルは静かになり、ジト目でシリウスを見る。
「性格悪すぎ」
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