knight5:命令だ

10/15
前へ
/83ページ
次へ
「意地っ張りな君よりはマシさ」 「私は意地なんかはってない」 「そうかい?とてもそうは思えないけどね」 「は?何言って……」  紅茶を静かに置くシリウス。その瞳はまるで獲物を狩るような鋭いものだった。 「私は、君が好きだよ」  リィルの心臓がドクリと大きく脈打つ。そして顔が熱くなっていくのを感じた。 「っ……だから!そんな冗談やめろって!」 「冗談ではないさ」  シリウスは口元に弧を描き、ゆっくりと言葉を紡いだ。 「言っただろう?私は一度決めたら意志を覆さない。私は君への愛に溢れている。君が拒絶しようとも、絶対に、逃しはしない」  そんな脅し紛いの言葉なのに何故か蕩けてしまうような甘美な響が脳髄に伝わる。リィルは頭がクラクラした。  ーーダメなのに。この人の手を取ったら、価値のあるこの人の未来を全て奪ってしまうのにっ……。  その時だった。血相変えた騎士がシリウスのもとへやってきた。ただ事ではない雰囲気にシリウスも先程の圧を消して、いつもの凛々しいオーラを出す。 「シリウス殿!大変なんです!」 「落ち着きたまえ。何があったというんだ」 「怪しい男がいて捕らえたのですが、その者が突然、闇魔術を使用して魔獣を呼び起こしたんです!」  シリウスとリィルは目を見開く。魔獣ーー魔力を持った力ある獣。そんな物が街中で暴れ回ったら民間人に被害がでる。 「シリウス殿、急いでこちらに!」 「しかしっ……」  シリウスは仲間の騎士に急かされるがなかなか動き出そうとしない。リィルは怪訝そうにしながら睨みつける。その時シリウスと目があい、彼の行動の理由を察した。  ーーああ、そうか。私がこの人の足枷になったんだ。
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!

53人が本棚に入れています
本棚に追加