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シリウスはリィルの騎士を名乗る。こんな危険な状況で側を離れられないのだろう。民間人とリィルを天秤にかけて、自分を選ばせてしまうことがリィルはとてつもなく嫌だった。
リィルは、守ると決めた騎士のシリウスに心惹かれているのだから。
「行けよ、シリウス」
淡々とリィルは告げる。シリウスはキッとリィルの顔を見た。その表情は何かを耐えるように、歯を食いしばっていた。
「リィル、私は……」
「この国一番の優秀な騎士、シリウス・バイオレットは民間人も救う。そーいう男だろ?」
「っ……ああ」
リィルの真っ直ぐな瞳はシリウスに迷いなくそう告げた。その瞳に見つめられ、シリウスは頷くと仲間の騎士達と魔獣を討伐に向かった。
ーーさて、ここも避難しないと。
混乱する人々の中、リィルはシリウスが向かった先とは反対の方向に駆け出す。こんな危険な王都からはさっさと逃げて屋敷は戻るべきだと考えた。
馬車の乗り場までひたすら走ると急に頭に強い衝撃を受けた。
「っぐ……!」
リィルの視界が歪む。同時に聞こえてきた声。
「ちょうどいい、手頃な若者は贄に使える」
贄って?とそこまででリィルの意識が遠のき、次に意識を取り戻した時には両手を縄で縛られていた。
「っ……な、なんだこれ……」
「お目覚めか?よく寝てたなぁ」
ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべながら全身黒づくめの男がナイフをちらつかせる。リィルが周りを見回すと辺りには木箱が散乱し荷車に乗っているのだとわかった。屋根付きのこれなら逃げ出すのには便利なのだろう。
「王都に探りこみに行ったら騎士共に絡まれて、なくなく魔獣召喚しちまったからなぁ。代わりの贄が手に入ってラッキーだったわ」
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