knight5:命令だ

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 男はニヤニヤとしたまま。リィルは今の状況を整理する。恐らくこの荷車を引いている者が一人、そして目の前の男。合計二人はいる。男の言葉を信じるなら王都にいて騎士に絡まれて魔獣を召喚したために代わりの贄を探していたというところ。 「おまえらか、王都で闇魔術を使用したってのは」 「御名答。今度の贄は賢いな。まあ血さえありゃいいんだが」  不吉な事を言う男にリィルは内心焦りながら、何とか情報を引き出そうと 会話を続ける。 「贄って生贄のことか?いったい何をするんだ」 「あー?おまえが知る必要はねぇけど、そうだな……闇魔術の発動には条件があるんだよ。若者の血を捧げることで成り立つんだ。だからお前には一緒にきてもらう。あいつら騎士共が追いつけなくなるまで……いや、国に帰るまでか。どっちにしろ、血さえ提供してくれりゃあお前はもう用済みだ」 「なっ!帰す気なんてないだろ!」  リィルの言葉に男はゲラゲラと笑う。 「そうだ、帰す気はねぇな。お前の血を一滴残らず絞りとるからな。だって道中襲われでもしたら不安だろ?だから贄の血をもらって魔獣を召喚するんだよ。贄の血を使って行う魔術は強力だ。例えば、騎士共なんか一瞬で蹴散らせるぜ?」  男の下卑た笑いにリィルはゾッとした。そんな恐ろしいことの為に自分が利用されるのかと……。頭に真っ先に浮かんだのは、シリウスだった。今頃魔獣と戦っているのか。怪我はしてないだろうか。そんなことばかり考えてーー……ああ、やっぱり。自分はシリウスが好きで大好きで大切だったんだと自覚をした。  そんなシリウスにもう二度と会えないかもしれない。そう思ったリィルは、自嘲する。  ーーよかった。これなら、物理的にシリウスと離れられる。望んではいけない想いに未来に苦しまなくてすむ。
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