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「そんなことはない。私は守ると決めた人でさえ、守れない愚か者だ」
「っ……ふざけんなよ、このわからずやがっ」
シリウスの言葉にこれまでリィルが我慢してきた想いが爆発する。シリウスを思って、隠してきたものが、露わになる。リィルは目の前のシリウスをキッと睨みつけた。
「私は……騎士のおまえに何度も救われたんだっ。この国一番の優秀な騎士に!立場も、肩書きも、家柄も一流のおまえにっ……だからっ、平民の私なんか見限って、とっととちゃんとした幸せがある方へ行くべきなのにっ……そうすれば、シリウスが負目に思うことなんてなんにもないのにっ!私はっ、シリウスの足枷になりたくないっ」
リィルの言葉にシリウスは目を見開く。そして先程よりも怒気を含んだ目つきでリィルに再び詰め寄った。
「私の気持ちはどうなる!?」
「だから!そんなの知るかってずっと言ってるだろ!私のことは、キッパリなかったことにしろよ!」
「君なしで私にどう生きろと言うのだ!?君がいなければ幸せになれないのに!!」
「っ……」
シリウスの想いにリィルはズキンと胸が痛む。けれど、それでも譲れない。どうしても譲りたくない。自分の幸せよりも彼の幸せを願ってしまうから……だから……。
「頼むよ、シリウス……」
「……っ……」
泣きそうなその鋭い眼差しに、シリウスは動けないでいた。そしてリィルが今にも消えそうな声で言葉を紡いだ。
「私を好きにならないで」
それは懇願するような言葉。その言葉にシリウスは目を見開く。しかしすぐに顔を顰めて苦しそうにした。
「命令だ。騎士は、主人の命令を聞くんだろ?」
それは絶望へのトドメの一言。リィルは騎士としてのシリウスに酷なことをした。シリウスの騎士として守れなかったという思いを利用して。たった一人の男としての彼の想いを踏み躙って。
「っ……承知、した」
「ありがとう、シリウス」
リィルは泣きそうな顔で微笑んだ。その笑みにシリウスは顔を歪める。そのままリィルを屋敷に送るまで、二人は一度も言葉を交わさず、顔を合わせなかった。
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