knight5:命令だ

15/15
前へ
/83ページ
次へ
「そんなことはない。私は守ると決めた人でさえ、守れない愚か者だ」 「っ……ふざけんなよ、このわからずやがっ」  シリウスの言葉にこれまでリィルが我慢してきた想いが爆発する。シリウスを思って、隠してきたものが、露わになる。リィルは目の前のシリウスをキッと睨みつけた。 「私は……騎士のおまえに何度も救われたんだっ。この国一番の優秀な騎士に!立場も、肩書きも、家柄も一流のおまえにっ……だからっ、平民の私なんか見限って、とっととちゃんとした幸せがある方へ行くべきなのにっ……そうすれば、シリウスが負目に思うことなんてなんにもないのにっ!私はっ、シリウスの足枷になりたくないっ」  リィルの言葉にシリウスは目を見開く。そして先程よりも怒気を含んだ目つきでリィルに再び詰め寄った。 「私の気持ちはどうなる!?」 「だから!そんなの知るかってずっと言ってるだろ!私のことは、キッパリなかったことにしろよ!」 「君なしで私にどう生きろと言うのだ!?君がいなければ幸せになれないのに!!」 「っ……」  シリウスの想いにリィルはズキンと胸が痛む。けれど、それでも譲れない。どうしても譲りたくない。自分の幸せよりも彼の幸せを願ってしまうから……だから……。 「頼むよ、シリウス……」 「……っ……」  泣きそうなその鋭い眼差しに、シリウスは動けないでいた。そしてリィルが今にも消えそうな声で言葉を紡いだ。 「私を好きにならないで」  それは懇願するような言葉。その言葉にシリウスは目を見開く。しかしすぐに顔を顰めて苦しそうにした。 「命令だ。騎士は、主人の命令を聞くんだろ?」  それは絶望へのトドメの一言。リィルは騎士としてのシリウスに酷なことをした。シリウスの騎士として守れなかったという思いを利用して。たった一人の男としての彼の想いを踏み躙って。 「っ……承知、した」 「ありがとう、シリウス」  リィルは泣きそうな顔で微笑んだ。その笑みにシリウスは顔を歪める。そのままリィルを屋敷に送るまで、二人は一度も言葉を交わさず、顔を合わせなかった。
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!

54人が本棚に入れています
本棚に追加